開業して最初の壁は、技術や商品の質ではありません。日本政策金融公庫の調査では、開業後に一番長く苦労する項目として「顧客・販路の開拓」が挙がっています。

営業というと気合のイメージがありますが、個人事業主の営業は段取りで決まります。売り先の定義、既存の接点、新規開拓の3段階に分けて考えます。

個人事業主の営業を3段階で整理した図

開業後に一番苦労するのは営業

日本政策金融公庫の2025年度調査では、開業時に苦労したことの1位は資金繰り・資金調達(56.9%)、2位は顧客・販路の開拓(49.9%)でした。開業から時間がたっても、現在苦労していることの1位は顧客・販路の開拓(48.8%)のままです。調査の対象は融資を受けた開業1年以内の企業で、多くの個人事業主が同じ壁に直面していることがわかります。

開業費用は平均975万円で、自己資金は平均279万円でした。資金のめどが立っても、売り先がなければ事業は続きません。開業費用の中央値は600万円で、平均より低い水準にとどまります。

出典: 日本政策金融公庫『2025年度新規開業実態調査』p.1(https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/kaigyo_251205_1.pdf, 閲覧日2026-07-01)

誰に何を売るかを1行で決める

営業の前に、誰のどんな困りごとを解決するのかを1行で書きます。業種、規模、役職まで絞ると、声をかける相手が決まります。相手を広く取りすぎると、提案が一般論になって響きません。

個人事業者の消費税申告は212万件に達しています。同業者が多いほど、専門を絞らないと選ばれにくくなります。得意分野を絞ることは、仕事を断る基準を持つことでもあります。

出典: 国税庁『令和6年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について』p.1(https://www.nta.go.jp/topics/pdf/0025005-063.pdf, 閲覧日2026-07-01)

まず既存のつながりから始める

最初に声をかけるのは、前職の同僚、取引先、友人などの既存の接点です。フリーランス協会の調査では、最も稼げる獲得経路の1位が人脈でした。

出典: フリーランス協会『フリーランス白書2026』p.1(https://blog.freelance-jp.org/20260609-25645/, 閲覧日2026-07-01)

久しぶりの相手には、近況とできることを短く伝えます。売り込みではなく、仕事を頼みやすくする連絡として書くのがコツです。連絡の頻度は月1回で十分です。

紹介を生む頼み方とお礼の報告

紹介は待つものではなく、頼んで生むものです。既存の取引先には、同じような課題の会社があれば紹介してほしいと具体的に伝えます。紹介先に送る短い自己紹介文を添えておくと、そのまま転送してもらえます。

仕事が終わったら、成果を短く報告します。紹介してくれた相手に結果が返ると、次の紹介につながりやすくなります。報告は、金額や成果を1行添えるだけで十分伝わります。

既存の接点から紹介を広げる流れ

新規開拓は小さく試して続ける

新規の相手には、いきなり大きく売り込まず、小さな相談から始めます。相手の公表資料を読み、課題を1つに絞った提案を送ります。提案文は、相手の公表資料から見つけた具体的な課題から書き始めます。

提案は数多く送って、少しずつ当たるのが普通です。反応がなかった相手も、数か月後に別の切り口で再連絡する価値があります。返信率は業界や時期で変わるため、数字を決めつけずに改善を続けます。

営業の記録は、送った日、相手、反応を1行ずつ残します。記録があると、次の一手を迷わず決められます。記録を見返すと、反応の良い切り口が見つかります。

新規開拓を続けるための記録の作り方

営業リストは手元から作り始める

営業先のリストは、いきなり大量に集める必要はありません。まずは過去に名刺を交換した相手、問い合わせをくれた相手、同じ業界の知人から書き出します。

リストには、相手の課題と自分の提案を1行ずつ添えます。送る前に読み返すだけで、刺さる文面かどうかを判断できます。

最後に: 記録が次の営業になる

営業は一度うまくいっても、翌月にはゼロに戻ります。だからこそ、続けられる形にすることが大切です。形にするコツは、仕組みを小さく保つことです。

売り先の変化、取引先の方針、競合の動きは、日々の小さな更新に表れます。記録と定点チェックを習慣にすると、営業の精度は少しずつ上がります。営業の記録は、自分の変化を測る材料にもなります。