「動画を見る時間が増えた」。そう実感する人は多いはずです。スマートフォンの中には、短い動画があふれています。
動画を作る会社にも追い風が吹いているように見えます。それなのに、映像制作の倒産は増えました。この記事では、市場の数字と現場の苦しさを分けて整理します。

動画の需要は増えているのか
矢野経済研究所の推計では、2024年度の動画コンテンツビジネス市場は前年度比103.7%の5,985億円でした。2025年度は前年度比105.3%の6,300億円に達する見通しです。企業の動画マーケティングや社内DXの広がりが背景にあります。
動画広告の伸びはさらに急です。サイバーエージェントとデジタルインファクトの調査では、2025年の国内動画広告市場は前年比122.2%の8,855億円でした。2026年には1兆437億円と、初めて1兆円を超える見込みです。
動画制作サービス市場の現在地
制作の現場に近い市場も伸びています。矢野経済研究所は2024年度の動画制作サービス市場を前年度比106.2%の4,238億円と推計しました。2025年度は4,580億円、2027年度には5,400億円へ拡大する予測です。
けん引役は二つに分かれます。5,000万円以上の高単価案件はテレビCMや国際イベントが中心で、市場全体を押し上げています。一方、1,000万円未満の案件はSNS運用やWeb動画として裾野を広げています。
需要増でも倒産が増える理由
東京商工リサーチによると、2024年の映像情報制作・配給業の倒産は55件でした。前年比41.0%増で、2015年以降では10年で最多です。情報通信業全体でも425件と、11年ぶりに400件を超えました。
倒産した会社の多くは小規模です。情報通信業の倒産では、資本金1,000万円未満が6割を占めました。下請けが多く、価格転嫁が難しい産業構造も背景にあります。
アニメ制作でも起きている異変
アニメは動画需要の中心ですが、同じ構図があります。帝国データバンクによると、2025年のアニメ制作市場は前年比9.9%増の4,065億8,600万円で、初めて4,000億円を超えました。制作会社1社あたりの平均売上も13億3,700万円と、2000年以降で最高です。
それでも2026年は5年ぶりに前年を下回る可能性があります。人件費や外注費が高止まりし、円安で海外外注のコストも上がりました。制作遅延で納品が翌期にずれる「期ズレ」も多発しています。
帝国データバンクは、需要が増えても利益が残らない状態を「利益なき繁忙」と表現しました。2025年1月から9月には、アニメ制作会社の倒産2件と休廃業6件が発生しています。

事業転換はどこへ向かうのか
生き残る会社は、売り先と作り方を変え始めています。帝国データバンクは、CGやデジタル作画に強い会社がイベント向け映像など高単価な案件を増やした例を挙げました。従来のテレビアニメ依存から、劇場版やゲーム向けフルCGへシフトする動きもあります。
人手不足への対応も進みます。外部のフリーランスに頼るリスクを見直し、アニメーターの正社員化や自社育成を進める会社が増えました。業務効率化のためにAI導入を検討する動きも始まっています。
同じ転換は他業種でも起きています。帝国データバンクは、印刷会社がWeb構築やAR、動画制作へ事業を広げる「デジタルソリューション営業」の動きを報告しました。制作の技術は、業界の枠を越えて使われ始めています。

最後に: 制作会社の変化をどう見るか
動画市場の数字は明るく見えますが、会社の体力は別の話です。受注額ではなく、外注費や人件費を引いた後に何が残るかで、会社の持続性は変わります。
決算は四半期ごとにしか出ませんが、採用や提携、外注先の変化はもっと早く表れます。競合の動きを定点で見る習慣が、市場の変化に気づく助けになります。
