値上げの話を切り出すのは、気が重いものです。しかし、待っているだけではコスト上昇分は戻ってきません。
国は中小企業が交渉しやすいように、毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」と定めています。この記事では、月間の仕組みと使い方を整理します。

価格交渉促進月間は何のためにあるか
中小企業庁は2021年9月から、毎年9月と3月を価格交渉促進月間と設定しています。エネルギー価格や原材料費、労務費が上がる中で、価格転嫁しやすい環境をつくるためです。
月間には広報や講習会、業界団体を通じた要請が行われます。月間が終わると、受注側の中小企業へのフォローアップ調査が実施されます。
なぜ3月と9月に設定されたのか
価格の改定は、半期に一度の4月と10月に行う企業が比較的多いとされています。その前月を月間にすることで、改定のタイミングに交渉を間に合わせやすくしています。
2026年3月は、特別な月間でした。協議に応じない一方的な代金決定の禁止などを盛り込んだ中小受託取引適正化法(取適法)が2026年1月1日に施行され、初めての月間になったためです。
フォローアップ調査で何が分かるか
調査は受注側の中小企業30万社へのアンケートと、取引Gメンによるヒアリングで行われます。回答は発注者に知られないよう匿名で集計されます。
結果は価格転嫁率や業界ごとの順位としてまとめられ、公表されます。状況の良くない発注者には、事業所管大臣名で指導や助言が行われます。公表された評価は、発注者ごとのリストとしても公開され、2026年3月分のリストは2026年8月4日に更新されました。
2026年3月調査の数字を読む
2026年3月の調査では、価格交渉が行われた割合が前回から微増して90.7%になりました。価格転嫁率は前回から約1ポイント増の54.2%です。
コスト要素別では、原材料費が55.7%、労務費が50.0%、エネルギーコストが48.9%でした。官公需の価格転嫁率は48.4%で、前回から約4ポイント下がっています。
価格交渉が行われたものの、全額の転嫁に至らなかった企業のうち、発注企業から納得できる説明があったと答えた企業は約6割でした。金額だけでなく、説明の内容も評価されています。
交渉の場面でも差があります。2025年3月の調査では、発注側からの申し入れで交渉が行われた割合は31.5%でした。コストが上がったのに交渉を申し出なかった企業も7.6%残っています。

月間をきっかけに交渉を進める手順
まず、自社のコスト構造を数字で把握します。中小企業庁は原価や利益の見える化ツールと、価格交渉の方法をまとめたハンドブックを無償で公開しています。全国47都道府県のよろず支援拠点には、価格転嫁サポート窓口が設置されています。
交渉では、上昇を示す公表資料を根拠にします。公正取引委員会の指針は、発注者からの価格提示を待たずに希望額を自ら示すことと、交渉記録を作成して双方で保管することを求めています。
月間は交渉を切り出す口実として使いやすい時期です。担当者だけでなく経営トップへの要請も含めて、協議の場を定期的に持つことが大切です。
交渉の時期は、業界の慣行に合わせた定期的なタイミングに重ねるのが有効です。発注者の繁忙期など、交渉力が比較的働く時期を選ぶこともできます。

最後に: 備えは9月から始められる
価格転嫁は一度決まれば終わりではありません。コストは動き続けるので、交渉も定期的に繰り返す必要があります。
月間のたびに自社の原価と取引先の動きを整理しておけば、交渉は毎回の思い付きではなくなります。9月の月間が終わっても、次の3月に向けた準備は続けられます。
