訪日客の数は過去最高を更新し続けている。それなのに、ホテルや旅館の倒産は増えている。このねじれはどこから生まれているのか。
この記事では、観光庁の宿泊旅行統計と倒産統計を並べて、稼働率と価格競争の実態を整理する。数字の裏側にある構造を見ていこう。

需要は過去最高でも倒産は増えた
観光庁の2025年確定値では、延べ宿泊者数は6億6,111万人泊で前年比0.3%増となった。日本人が2.7%減った一方、外国人は1億7,992万人泊で9.4%増えている。数字を押し上げているのは訪日客である。
宿泊業の倒産は2025年に89件で、前年の78件から2年連続で増えた。休廃業・解散も178件あり、合計267件の事業者が市場から退出している。
日本人の延べ宿泊者数は4億8,118万人泊で、前年比2.7%減だった。外国人客の増加が日本人客の減少を埋めている構図であり、訪日客に依存する施設ほど市況の変化に影響されやすい。
稼働率の低い旅館に残る課題
施設タイプ別の客室稼働率は、ビジネスホテルが75.3%、シティホテルが74.1%である。一方で旅館は38.2%、簡易宿所は29.6%にとどまる。同じ宿泊業でも、埋まっている施設とそうでない施設の差は大きい。
月別では、10月の全体稼働率が66.6%と最も高く、6月は58.8%まで下がる。繁忙期と閑散期の差が大きいことも、宿泊業の採算を難しくする。
需要が戻っているのは都市部のホテルが中心だ。2026年上半期のホテル・旅館の倒産は36件で、負債総額は183億1,400万円に達している。退出の多くは地方の中小施設に集中している。
価格競争が利益を削る仕組みとは
客室稼働率が低い施設は、値下げで客を集めざるを得ない。しかし宿泊原価の多くは人件費や光熱費であり、値下げ分をそのままコストで回収することはできない。価格競争が長引くほど、利益は薄くなる。
薄い利益の中で設備の改装や人材確保にお金を回せないと、サービスの差がさらに開く。これが稼働率の差を固定化させる。

廃業178件が示す静かな退出
倒産に至る前に、廃業を選ぶ経営者も多い。休廃業・解散は178件で、倒産の2倍に達する。後継者が見つからないまま、静かに店を閉じるケースが含まれる。
帝国データバンクの2025年調査では、宿泊業の後継者不在率は60.7%だった。旅館の多くは家族経営であり、承継の問題は経営の継続そのものに関わる。
後継者不在のまま設備が古くなれば、競合との差は広がる。休廃業は経営者の決断ひとつで起きるため、統計に表れる前に予兆が出る。
ゼロゼロ融資の返済ピークが迫る
コロナ禍で広がった実質無利子・無担保のゼロゼロ融資は、据置期間の終了が重なる。返済開始のピークは2026年4月から9月とされ、宿泊業は他業種より借入規模が大きい。
ゼロゼロ融資の利用件数は約30万1,000件で、その約8割は据置期間が2年以内に設定された。返済開始が重なる2026年は、資金繰りの正念場になる。
インバウンドで売上が戻っても、返済が始まれば手元に現金は残らない。光熱費や食材費の上昇も重なり、返済原資を確保できない施設が退出に追い込まれている。

最後に: 稼働率と価格を追う理由
旅館の稼働率38.2%という数字は、業態としての難しさを示している。稼働率の高いビジネスホテルでも、価格競争とコスト高の圧力は同じようにかかる。
競合の料金改定や改装、撤退の兆しは、決算の数字より先に予約サイトや求人広告に表れる。稼働率と価格の両方を定点で見ることで、変化に早く気づける。
自社の客室単価と稼働率を並べて記録するだけでも、市場の変化は見えてくる。比較の基準を持てば、値下げの判断も根拠を持ってできる。
