2025年度、日本の印刷業から1年に300社を超える会社が消えました。街の印刷屋も、伝票を刷っていた工場も、同じ波の中にあります。
印刷は「情報を広く安く伝える」役割を長く担ってきました。その役割がデジタルに移る中で、何が起きているのかを公開データで追います。

印刷業にいま何が起きているか
帝国データバンクは2026年5月、印刷業の倒産と休廃業の調査結果を公表しました。2025年度の休廃業・解散は前年度比18.6%増の230件で、年間最多を更新しています。倒産91件と合わせ、300件超が市場から退出しました。
集計期間は2000年4月から2025年3月までです。負債1,000万円以上の法的整理を倒産、それ以外で事業停止や解散を確認した会社を休廃業として数えています。
1年で300社が市場から退出
230件という廃業は、前年度から36件増えました。背景にあるのは需要の減少だけではありません。紙やインクの資材高騰、電気代や物流費、人件費の上昇が重なっています。
インボイス制度の導入で紙の伝票や帳簿の需要も減りました。アプリやSNSの台頭でチラシやDMも減り、「新聞の折り込みチラシがスマホのデジタル広告に取って代わられた」という声も報告されています。
人材の獲得も難しくなっています。市場が縮小する中で若い担い手が集まらず、代表者の高齢化も重なりました。帝国データバンクは、こうした経営課題を抱えて事業継続を諦める会社が増えていると分析しています。

売上高がピークの7割にとどまる理由
印刷業全体の売上高は、ピークだった2007年度の8.3兆円に届きません。帝国データバンクは現在の水準をピークの7割程度としています。
大量印刷と低コストを前提としたビジネスモデルは、需要が減ると設備の重さに変わります。稼働率が下がっても機械の減価償却は続き、利益を押し下げます。
さらに、失注を恐れてコスト上昇分を価格に転嫁できない状態が続きました。利益の出ない受注が常態化したことが、廃業を後押ししたとみられています。
廃業が倒産を上回る意味とは
印刷業では、倒産よりも廃業の方が多い状態が続いています。全国でも同じ傾向です。東京商工リサーチによると、2025年の休廃業・解散は前年比7.2%増の6万7,210件で、3年連続の過去最多となりました。
休廃業した会社の代表者は、60代以上が90.6%を占めています。後継者が見つからないまま、赤字が膨らむ前に事業を畳む「円満な退出」が広がっています。
生き残る会社は何を変えたか
帝国データバンクは、生き残りをかけた動きも報告しています。Webサイトの構築やAR技術の活用、動画制作、業務のアウトソーシングなど、印刷の知見を生かしたデジタルソリューション営業への転換です。
大手では、大日本印刷がAIとXRを組み合わせた映像制作スタジオを開設しました。印刷会社が映像制作のコストや納期、人材不足の課題を請け負う動きです。
中小の活路はパッケージ印刷にもあります。インバウンド需要が伸びる土産菓子の受注を取り込む例や、廃業した同業の顧客を引き受ける「残存者利益」を狙う例が報告されています。
日本印刷技術協会の調査では、印刷会社の設備投資意欲は大きく下がりました。投資の対象は装置からAIや人材へ移りつつあります。

最後に: 退出の裏側をどう見るか
300社の退出は、単なる衰退の数字ではありません。顧客と仕事が、紙から別の形へ移っていることを示す数字です。
同業の退出は、残った会社にとって顧客を引き受けられる機会でもあります。競合の廃業や事業転換のニュースは、自社の受注が動く前触れかもしれません。
