人材不足が叫ばれる時代に、人材を送り出す会社が倒れている。帝国データバンクの集計では、2025年1-8月の労働者派遣業の倒産は59件に達した。

この記事では、公開統計を使って派遣業の倒産が増えた理由を数字でたどる。売上が伸びても利益が残らない構造を知れば、自社の採算を見直すヒントになる。

派遣業の倒産件数と前年比の推移

派遣業の倒産が過去最多ペースになる理由

59件は前年同期比55.3%増である。労働者派遣法の改正やリーマン・ショック後の回復期に競争が激化した2013年同期の61件に次ぎ、過去2番目の水準となる。このペースが続けば、通年では過去最多の90件前後に達する可能性がある。

出典: 帝国データバンク『労働者派遣業の倒産動向(2025年1-8月)』p.1(https://www.tdb.co.jp/report/industry/20250908-hakenntosan/, 閲覧日2026-06-21)

業界全体の売上が縮んでいるわけではない。日本人材派遣協会の集計では、2022年度の派遣売上高は8兆7646億円で前年度から6.4%増えた。市場が拡大する中で倒産が増える点が、この業界の特徴である。

59件という数字が示す競争環境

倒産の引き金は、派遣スタッフを集められないことにある。総務省の労働力調査では、2024年10-12月期の派遣労働者数は158万人で、前年同期から5万人減った。人が集まらないのに、派遣先からの注文は減らない。

出典: ITmedia ビジネスオンライン『空前の人手不足なのに なぜ? 派遣会社の倒産が過去最多ペース』p.1(https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2511/28/news020.html, 閲覧日2026-06-21)

スタッフを確保できなければ、派遣先の期待に応えられず契約は競合に移る。市場が大きいほど、人材の獲得競争は激しくなる。

帝国データバンクは、収益確保が難しい体力の乏しい事業者を中心に、倒産の増加は今後も続くと予測している。人材の奪い合いが続く限り、淘汰の圧力は弱まらない。

派遣スタッフ減少とコスト増の連鎖

賃上げとマージン圧縮のジレンマ

人を集めるには時給を上げるしかない。しかし派遣料金を同じ割合で引き上げられなければ、会社の取り分は減っていく。賃上げとマージン圧縮が同時に進む構造である。

帝国データバンクは、人材確保のための賃上げや待遇改善が運営コストを圧迫し、収益悪化から倒産に至るケースが多いと分析している。体力の乏しい事業者から淘汰が進む。

派遣料金の設定では、競合他社との比較も避けられない。派遣先は複数の会社から見積もりを取るため、価格を上げれば仕事が減り、据え置けば利益が消える。

小規模事業者ほど倒産しやすい理由

派遣の営業は、得意先との関係と人材の蓄積がものを言う。資本力のある大手は全国規模で採用できるが、中小は特定の地域と職種に頼りがちである。

2025年の全国企業倒産は1万261件で、12年ぶりに1万件を超えた。物価高と人手不足が中小零細の資金繰りを直撃しており、派遣業も例外ではない。

資本力のある大手は、複数の業界と地域に人材を送り出せる。一方で中小は特定の取引先に依存しやすく、その会社の業績が悪化すると経営全体が傾く。

出典: 帝国データバンク『倒産集計2025年報(1月~12月)』p.1(https://www.tdb.co.jp/report/bankruptcy/aggregation/20260113-bankruptcy2025/, 閲覧日2026-06-21)

紹介と派遣で異なる競争のかたち

人材紹介は採用が決まった時点で報酬が入る成功報酬型が主流である。派遣は稼働が続く限り収入が立つため、資金繰りの形が異なる。

どちらも顧客企業の採用方針に左右される点は同じだ。採用が絞られれば、紹介も派遣も同時に打撃を受ける。

派遣の契約は派遣先の繁忙期に左右されやすく、紹介の成約は採用計画に左右される。どちらのモデルも、顧客企業の事情が収益を決める。

最後に: 数字を定点で追う理由

派遣業の倒産は、景気の良し悪しだけでは説明できない。人手不足という追い風の中で、人を集められる会社と集められない会社の差が淘汰につながっている。

同業他社の料金改定や募集条件の変化は、決算よりも早く現場に表れる。競合の動きを定点で見ておけば、自社の採算が崩れる前に気づける。

時給や募集要項の改定、新しい取引先の開拓。そうした日々の動きを追うことが、派遣業の競争環境をつかむ第一歩になる。

派遣業の倒産から見える3つの圧力